黒魔術部の彼等 ハロウィンネタディアル編


10月31日、学校はハロウィンイベントで盛り上がっていた。
生徒は好き好きな仮装をして、教師からお菓子をねだる。
お菓子が欲しい年ごろでもないのだけれど、その場の雰囲気に合わせてランタンを持っている生徒は多かった。
けれど、黒魔術部は普段からハロウィンよりおどろおどろしくて
そんなお祭りの中でも、いたって平常運転だった。

キーンは相変わらず怪しくて、ディアルは物静か。
イベントとは無縁な環境だったけれど、1つ行動に起こしてみたいことがあった。
「ディアルさん、この後、家に行ってもいいですか?」
「ああ」
簡単に了承されて、密かに高揚する。
こんなイベントにこじつけないとできないようなことをしたい。
そんなことを思いついてしまって、実行に移したかった。


一旦家に帰り、鞄を持ち変えてディアルの家へ行く。
自室へ移動するといつものようにベッドに座り、隣でディアルを見上げた。
「ディアルさん、今日はハロウィンですね」
「そうだな」
特に興味はないようで、平坦な返事が返ってくる。

「ちょっと、ここで待っていてください」
突拍子もなく席を立ち、部屋を出て鞄の中身を取り出す。
いつもの白いシャツに黒いマントをつけ、魔女の三角帽を被って
再び部屋へ入り、ディアルに歩み寄った。

「ディアルさん、トリックオアトリート、お菓子くれないと悪戯しますよ」
こうやって彼の前に立ち、この台詞を言うために買ってきた。
ディアルは表情一つ変えず見ていたが、リアクションが欲しかったわけじゃない。
企んでいたのは、この先のことだったのだけれど

「菓子ならある」
「え」
ディアルが、ポケットから金の包を取り出す。
この人がお菓子なんて持っているとは思わず、表情がひきつった。
包が宙を飛び、目の前に浮かぶ。


「あ・・・じゃあ・・・いただきます」
本当は悪戯をする予定が、見事に崩されてしまった。
とりあえず包を開けて、チョコレートを口に放り込む。
甘さを期待して噛んだ瞬間、口には真逆の味が広がった。

「ん・・・?こ、これ、苦・・・!」
「カカオの濃度が90%と高いからな。苦味で脳が冴える」
これはお菓子ではなく、ただの苦味の塊だ。
吐き出すのも失礼で、なんとか飲み込む。
仮装までして苦い思いをして終わるのは悔しくて、ディアルの隣に座った。

「何てもの持ってるんですか・・・常人が食べるお菓子じゃないでしょう」
「すまない、水で味を薄めるか」
ディアルが立とうとしたが、腕を掴んで引き留める。
「薄めたいですけど・・・それなら、他の物がいいです」
ディアルの肩を掴み、膝立ちになる。
たぶん、この状態になれば何をされるかわかっていると思うけれど、ディアルは何も言わない。
身を下ろしてゆき、静かに唇を重ねた。

固くは閉じられていない唇を舌で割り、中へと侵入させる。
どうせ味を薄めるのなら、彼のものがいい。
さっきの味を擦りつけるよう、柔い舌を触れ合わせた。
ほんのりと温かみがあって、液が混じる感触に陶酔する。
ゆっくりと絡め、この感覚を味わっていたかったけれど
さっき以上に苦々しい味が伝わってきて、早々に身を離した。


「・・・あ、あの、何か、とてつもなく、苦いものが・・・」
「さっきまで濃度99%のものを食べていたからな」
「うわ・・・」
甘い気持ちも吹き飛ぶような口付けに気落ちする。
「あの・・・やっぱり水もらってもいいですか」
げんなりして言うと、自動で扉が開く。
水が運ばれてくるのかと思いきや、複数の飴玉が飛んできた。

「水程度では打ち消される。好きなものを選べ」
「じゃあ・・・このオレンジ色のやつで」
取ろうとしたが、飴はディアルの方へ飛ぶ。
それを取ると、自分で口に含んでしまった。
最初は呆けていたが、気付いてはっとする。

「・・・そんな誘い掛けるような技、どこで学んだんですか・・・?」
たまらなくなって、ディアルともう一度唇を重ね合わせる。
舌を差し入れると、飴玉があるとわかって、お互いの舌で転がす。
じんわりと感じた甘みは、高揚感を伴って脳髄にまで染み渡るようだった。


飴玉が解けきるまで、長く交わったままでいる。
たまに、甘味を口内へ広げるように舌先で内側を軽く弄ると、ディアルからわずかに吐息が漏れた。
いつも平静な彼でもこうして交われば、反応して、応えてくれる。
その熱っぽい温度に、自分の心も溶かされてしまいそうだった。

飴玉が徐々に小さくなり、やがてなくなってしまう。
口付けている理由もなくなってしまって、名残惜しくも離れた。
唇を離すと、隙間から溜息のような吐息が吐かれる。
言葉で伝えずとも、そんな温もりを感じるだけで大きな充足感があった。

「苦味は取れたか」
「あ・・・えっと・・・」
声はいたって平坦になっていて、物足りなさを感じる。
手探りで、ベッドの上に落ちている飴を取った。

「まだ・・・取れません。今度は、別の味で・・・」
包みを破り、唇で軽く挟む。
この1粒も舐め終えた後でも、同じことを言えば続けさせてくれるのだろうか。
歯止めはかからず、また唇を寄せていた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
突発的に思いついた季節ネタということで短め。